2021/10/25
税理士 湊 義和

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国外転出(相続)時課税の基本的な事例について


Q:私の相続人は子供2人です。それぞれ海外で生活しており、日本に戻る予定はありません。私の財産は、預貯金が1億円・有価証券等が評価額で2億円・不動産は時価1億円です。このまま相続が開始された場合、有価証券等については「国外転出(相続)時課税」により課税を受けると聞きました。詳細を教えて下さい。

A:有価証券等を評価額で1億円以上有している日本の居住者の相続が開始となり、その相続人が日本の非居住者である場合には、相続開始日に有価証券等の譲渡があったものと見なしてその含み益(評価額△取得価額)について、その相続人は、被相続人の所得税の準確定申告の申告及び納付を行う必要があります。これが「国外転出(相続)時課税」です。準確定申告は、相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行います。

1.「国外転出時課税」と「国外転出(相続)時課税」

(1) 「国外転出時課税」
 日本の居住者が出国して日本の非居住者となる場合、その者が出国時に有価証券等の対象資産について評価額1億円以上を所有する者であり、かつ、原則として出国日前10年以内において5年を超えて居住者であった者には、その出国日に、対象資産を譲渡したものと見なしてその含み益に対して所得税が課税されます。いわゆる「出国税」と言われているものが「国外転出時課税」です。米国や欧州の先進国でも導入されています。
 対象資産は、有価証券等(株式・投資信託等)、未決済信用取引等、未決済デリバティブ取引です。評価額1億円以上とは、含み益があるかどうかにかかわらず、また譲渡による所得が非課税となる公社債やNISA口座内の有価証券や国外で所有しているものも含めて、全ての対象資産の価額の合計額で判断をします。

(2) 「国外転出(相続)時課税」
 相続により居住者から非居住者へその所有権が移転するため、上記(1)「国外転出時課税」による出国時と同じ状況になります。よって、居住者(被相続人)の所得税の準確定申告において課税されます。

2.納税猶予制度
 有価証券等を譲渡したものと見なしてその含み益に対して課税されるため、実際に譲渡代金が手元にあるわけではなく、自己資金により納税する必要が生じます。そこで納税猶予制度はあるのですが、準確定申告書の提出期限までに、①納税額に相当する担保を提供②非居住者の相続人全員により連署による納税管理人の届出の提出、をしなければなりません。これにより5年間は猶予されます。さらに「期限延長届出書」の提出により10年間は猶予されます。またこの納税猶予期間中は、毎年12/31において所有している対象資産について記載した「継続適用届出書」を翌年3/15までに提出する必要があります。

3. 減額措置等
 納
税猶予期間中に①非居住者である相続人が日本に帰国した場合②対象資産を日本の居住者に贈与した場合③非居住者である相続人が亡くなりその相続人が全員日本の居住者となった場合、には国外転出時課税の適用が無かったものとなります。この手続きは、帰国等をした日から4か月以内に更正の請求をしなければなりません。
 上記以外に①非居住者である相続人が対象資産の譲渡した時に、準確定申告時より評価額が下落していた場合②納税猶予期間満了日の評価額が下落していた場合には、納税猶予申請時の税額よりも減額した税額により納付することができます。また、非居住者である相続人が対象資産を譲渡して、居住地国にて課税を受けるため2重課税が生じている場合には、外国税額控除の適用を受けることが出来ます。これら手続きは、譲渡等の日から4か月以内に更正の請求をする必要があります。

4. 事例でみる税額負担
(1) 準確定申告(他の所得は無いものとして算定)

評価額    2億円
取得価額  △1億5,000万円
課税標準額  5,000万円
税額…5,000万円×15.315%(復興税含む)=7,657,500円(住民税は課税されない)

(2)  相続税申告(法定相続分にて算定)(1万円未満切捨により記載)
預貯金    1億円
有価証券等  2億円
不動産    6,000万円(相続税評価額と仮定)
債務控除  △765万円(準確定申告の納税額を控除。納税猶予の適用を受けた場合には控除不可。)
基礎控除  △4,200万円
課税標準額  3億1,035万円
税額…3憶1,035万円×1/2×40%△1,700万円=4,507万円/相続人1人あたり

(1)+(2)=相続人2人合計の納税負担…765万円+4,507万円×2人=9,779万円

以上

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